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虐待は脳が委縮する。NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」友田明美(福井大学)氏の生き様

      2018/11/22

昨日の、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」は、「傷ついた親子に幸せを~小児神経科医友田明美」というテーマでした。

 

主に虐待が子供の脳に及ぼす影響を研究されている医師・友田明美先生に密着した非常に興味深い内容でした。

 

虐待が脳の一部を委縮させるということは、既に浜松医科大学の杉山登志郎先生の著作を読んで知っていたのですが、虐待と脳の関係を解き明かす研究の第一人者が日本人の女性であったことを、昨日の「プロフェッショナル・・・」で初めて知りました。

 

 

友田明美先生のプロフィール

 

 

友田明美先生は現在、福井大学・子どものこころの発達研究センター発達支援研究室に所属し、本学附属病院子どものこころ診療部で小児科医として勤務しています。

 

友田先生が小児童虐待に関心を持ったのは、研修医時代。
脳内出血の3歳の男の子が病院に運ばれてきて意識はなく、その子の両親は「寝ぼけて階段から落ちた」と言っていたそうです。
しかし、子どもの服を脱がせたら、殴られた痕や火傷の痕ばかりで「虐待だ」と友田先生は確信しました。

懸命の治療の甲斐もなく、男の子は3日後に息を引き取りました。

友田先生は、「自分たちは何もできないんだ」という無力感に襲われたそうです。

救命救急センターに運ばれてきたときでは遅すぎるということを、痛感した出来事でした。

 

その後、児神経科医として臨床にあたりますが、時に、子どもの親に強く説教をして心を閉ざさせてしまったり、行き詰まりを感じるようになります。

 

5年間、悶々とした日々を過ごした友田先生は、ある女の子との出会いをきっかけに、虐待をなくすには、親の心を元気にしなければならないことを悟ります。

 

不登校がきっかけで来院した女の子。

女の子を立ち直らせそうと、父親の体罰が日常的に行われていました。
父親はリストラに遭っていて、会社をクビになりそうな状況にあると、母親の話で知った友田先生は、とっさに「お父さんがやばいよ。お父さんの話を聞いて向き合ってあげて」と言ったそうです。

 

友田先生は、女の子だけでなく、家族と正面から向き合いました。

 

やがて、父親が再就職し、家族に平穏が訪れると、女の子も学校へ通えるようになったそうです。
この出来事で、友田さんは、子どもだけでなく親にも向き合い、家族関係の風通しをよくするのも自分の役割であると悟ったのです。

 

友田明美先生の虐待と脳の研究

 

友田先生は虐待によって脳がどのような影響を受けるのかを、43歳でハーバード大学へ留学し、児童虐待における研究の世界的権威・マーティン・タイチャー博士と出会い、共同研究に着手します。

 

最初に、体罰を受けた人と受けなかった人の脳のMRI画像を撮影し、比較しました。

 

すると、感情などを司る前頭前野の一部が、およそ19%萎縮していることがわかりました。

 

ADHD

 

虐待が脳に与える影響を、世界で初めて科学的に立証したのです。

 

マーティン・タイチャー博士は、虐待による脳への影響が解明される以前まで、心に傷を負った成人の人に、「20年前のことを引きずらずに、前向きに生きなさい」と話していたそうですが、医師として、そのような話し方では、心に傷痕を残してしまうということがわかったのだそうです。

 

友田先生は研究をさらに進めて、暴言を受けた子どもは、聴覚を司る部分が変形することも突き止めました。

 

そして、夫婦間の暴力行為、いわゆるDVを目撃した子どもは、視覚野が委縮することも明らかにしました。

 

「見たくない、聞きたくない、言いたくない」という気持ちが、脳の自己防衛本能が働き、神経細胞の変化を遂げてサイズを小さくする、という分析を友田先生はしています。

 

萎縮した脳の回復

 

友田先生の研究では、傷ついた脳は、その後のケア次第で回復することが、徐々にわかりつつあります。

しかし、それを科学的に証明するのは、まだまだ先になりそうです。

 

「脳の傷も回復するんだということを、信じてやみません」
と友田先生は話します。

 

確かに、「回復」という希望がなければ、せっかくつきとめた虐待と脳の研究も、意味のないものになりそうです。

 

「絶対、回復します」と友田先生は番組ではっきり言い切りました。

 

 

科学的な証明には、たくさんのデータが必要なので、日ごろの臨床を重ねていくことで、友田先生は「虐待によって萎縮した脳の回復」をいつか立証して下さることを期待し、友田先生の新しい論文もチェックしていきたいです。

 

虐待が脳を変える―脳科学者からのメッセージ
虐待が脳を変える―脳科学者からのメッセージ

 

虐待を本気で防ぐには、おせっかいなくらいがちょうどよい?

 

友田先生は、家族の問題に深く踏み込むことに、全く躊躇しません。

 

番組の後半で、自閉症の姉妹がいるご家庭が紹介されます。
姉妹の関係が悪く、喧嘩が絶えないそうです。

 

母親はその対応に追われていて、姉妹に手をあげるというマルトリートメント(不適切な養育)をしてしまいます。
姉妹の対応の他に、手術したばかりの親の介護があり、仕事が忙しい夫には頼れない状況です。
自傷行為を繰り返すまでに母親は追い詰められ、2ヶ月で7キロも痩せてしまいました。

 

友田先生は、母親に2週間の入院を提案します。
姉妹の学校が始まるのが2週間後ということで、それまで、長女はを児童養護施設に行かせて、母親は入院するという提案です。

 

友田先生は、「前進するための入院」と、様々な言葉で説得しますが、母親は聞き入れませんでした。

 

そして友田先生は夫を呼び出し、入院を説得します。
夫は妻の入院は受け入れましたが、長女を児童養護施設に入れることは拒みます。

 

児童養護施設に入れることで、娘が「見捨てられた」と思うだろうというのが夫の考えです。
40分説得しても、夫が考えを変えることがありませんでした。

 

友田先生は、地域の児童相談所に連絡し、「このご家庭を見守っていてほしい」と依頼します。

 

その後、児童相談所に問い合わせした友田先生は、母親が入院をしていない状況を知り、このご家族に別の提案をします。

 

長女を施設に入れるのではなく、在宅ケアをしながら立て直したらどうかという提案です。

 

「今日、もう紹介状を書いて来ているから。私ね、すごくおせっかいなんですよ。」と友田先生は父親に言います。

 

父親は、「一つだけ情報を聞きたいんですけど」と前置きし、お金がいくらかかるのかを問いました。

友田先生は「そこは相談しましょう」と、その場で支援センターに電話し、補助金の申請など、費用の相談に乗ってもらえるように頼み込みます。

 

 

友田先生の働きかけによって、家族は一歩前進しました。

 

 

 

目黒区で虐待を受けて亡くなった船戸結愛ちゃんの例もありますが、虐待は家庭内の見えないところで行われているので、児童相談所が関わっていても命を救えないことがあります。

 

なかなか他人の家庭のことには口出ししにくいと思いますが、これくらいおせっかいに働きかけなければ、虐待はなくならないのかもしれません。

 

とてもアグレッシブな友田明美先生、私も会ってみたいと思いました。

 

過去に、「クローズアップ現代」や日テレの「世界一受けたい授業」にも出演されたこともあるようで、友田明美先生は今、とても注目されている方なのですね。

 

我が家の近くで講演会が開催されるとうれしいです。

 

 

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