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ハートネットTV「罪を犯した発達障害者 少年院の現場から 」を見て。戦慄かなのさんが注目される理由

   

最近、Eテレ ハートネットTVで「罪を犯した発達障害者の”再出発” 第1回 少年院の現場から 」という特集をやっていました。

 

これは過去に放送した映像に新たな解説を加えている形で番組が作られていて、「おや?なんか見たことあるなー」と思いながら見ていました。(よく見たらアンコール放送と書かれていた!)

 

最近、戦慄かなのさんという少年院出身のアイドルの方が注目されているようで、ネット番組をはじめ「アウト×デラックス」や「サンデージャポン 」など地上波の人気番組にも躍進しています。

 

戦慄かなのさんはとても頭脳派な人で、少年院でのエピソードも面白い論点で話しています。

 

ハートネットTVで見た発達障害のある子の少年院での日々と、戦慄かなのさんの話す少年院での生活は、どちらもその人には必要な時間と場所なのだということを感じました。

 

 

少年院というところのイメージと現実

 

戦慄かなのさんが話す少年院での生活は、私が思っていたイメージとは大分違っていたので、興味深いものがありました。

 

私が子供の頃、「不良少女と呼ばれて」や「ポニーテールはふり向かない」などの女子少年院が出てくるテレビドラマ(大映テレビ!)が流行っていて、少年院内では気の荒い者たちの抗争が繰り広げられているものと勝手に思っていました。

 

しかし、実際は、少年院内では会話が禁止なので、争い事も起きるわけもなく、どうしても話さなければならないときは、タイマーで時間を計られながら既定時間内で話さなければならないといった、厳密な規則のもとに生活しているようです。

 

刑務所のようなところを勝手にイメージしていたのですが、基本は未成年者(受刑時の年齢が20歳以下)が収容されるところなので、学校のような一面もあったりするようです。

だから、受刑者が発達障害だったら、障害にも寄り添って配慮していかなければならないし、少年院を出てからのトラブルをなくすためのコミュニケーションの授業を実施しているのですね。

 

戦慄かなのさんは少年院でたくさんの本を読み(5000冊!)、たくさんの資格をとり、高等学校卒業程度認定試験も合格したそうです。

 

少年院では学習する環境が整っているということなのですね。

あくまで「更生施設」ということなのでしょう。

 

発達障害と少年院

 

自閉症 発達障害

 

「鶏が先か、卵が先か」ということになりそうな話ですが、少年院に収容された非行少年には、親からの虐待を受けて育った子が多く、先日の記事でも書きましたが、虐待は脳の前頭前野を委縮させ、感情のコントロールが難しくなったり、集中力がなくなったりという発達障害に似た症状が出ることがあるので、後天的な原因で発達障害と診断される子もいるだろうということです。

 

生まれつきの発達障害の子が、その育てにくさゆえに虐待されてしまうというケースももちろんあるだろうし、本当にこれは、「鶏が先か、卵が先か」という問題なのだと思います。

 

先天的にしろ、後天的にしろ、発達障害として認識して、対応するのはよいことだと思うので、少年院が発達障害に対する取り組みを明確化することはとても意義のあり、2016年に国が発達障害の少年に対する指導方針をガイドラインとして打ち出したことは評価されるべきことなのでしょう。

 

今回見たハートネットTVで、集中力が低く人に巻き込まれやすい自閉症スペクトラムの少年と教官とのやりとりが登場しましたが、日課のグラウンド整備中にふざけている少年たちから自分の意志で離れ、黙々と作業を続けることができた自閉症の少年に、後で教官は褒める言葉をかけていました。

 

「自分がどういう状況になったら危なくなるのか、考えてやっていたんだ?そういうことを自分で察知して行動に出来るっていうのは大事なことだね」

 

と、以前ならふざける少年たちに巻き込まれていたであろう状況を自分で回避できた少年の成長を見逃さず、適切な言葉で良い行動を褒めてあげる教官が少年院にいるというのは素晴らしいことだと思います。

 

全国のすべての少年院で発達障害に対する理解が進んでいるわけではないかもしれませんが、番組で紹介された少年院のように、専門家のアドバイスを取り入れながら対応の改善を目指していくしくみがあると、教官の意識の向上につながるのでしょうね。

 

戦慄かなのさんと少年院

 

「少年院上がりのアイドル」という強烈なインパクトと共にメディアに登場した戦慄かなのさんですが、彼女の頭脳明晰なところも人々の関心を集める要因となっています。

 

私の印象としては、過去の記事でも紹介した、トリイ・ヘイデン(Torey Hayden)というアメリカの児童心理学者の代表作、『シーラという子 虐待されたある少女の物語』(原題:One Child)に登場するシーラと戦慄かなのさんは重なって見えるのです。

 

シーラという子―虐待されたある少女の物語
シーラという子―虐待されたある少女の物語

 

シーラはその養育環境からは想像できないような頭のよい子で、IQ180を超える天才です。

 

戦慄かなのさんのIQは公開されていないし、ご本人も自分のIQを知らないかもしれませんが、20歳になったばかりということなので、WAIS-Ⅲ(WISCは16歳まで)あたりをぜひ受けていただきたいな、と思うのです。

 

自己プロデュース力の凄さも際立っていて、戦慄かなのさんの出演した番組をいくつか見たところ、そのすべてに爪痕を残し、次のチャンスにつなげています。

 

単に少年院を出たというだけではそこまでいろんな番組で取り上げることはないと思うのですが、話術の巧みさと、自身のキャラクターの使い分けが見事なのです。

 

バラエティーの大半はタメ口で話していますが、Youtubeに上がっていた「SUGARと辛酸なめ子のあまから秘宝館」というネット番組では敬語を使ってちゃんと話しています。

 

敬語が苦手な人が頑張って敬語を話そうとすると、大体ボロがでるものですが、違和感のない敬語です。

 

戦慄かなのさんは大学の法学部に在籍し、児童虐待を受けた子どもをサポートするNPO法人を立ち上げ代表となり、メディアにコラムの執筆もしていて、知性を生かした活動も難なくこなしています。

 

吉田 豪さんのSHOWROOMの配信でのやりとりを見ると、「伏線を回収できてない」といった言葉が出てきたり、論点をきちんと整理して話せる人です。

 

この「論点をきちんと整理して話す」という能力は誰にでもあるわけではなく、私が今までに出会った人には高学歴であっても話が散らかってよくわからない人もいたので、戦慄かなのさんはとても知性のある人だと思うのです。

 

少年院にいた2年という短い期間でたくさんの資格をとり、特に漢検準1級は大学生レベルの試験範囲なので、高等学校卒業程度認定試験など他の資格と並行して勉強し、受かってしまうところに特段の凄さを感じています。

 

少年院に入らなければ、彼女の生い立ちでは、その能力の高さを良い方に開花させる環境になかったと思うので、結果的にはよかったのだと勝手に思っています(本人は辛かったと思いますが)。

 

少年院に入っていたということで、堂々とメディアに出ている様子をバッシングする人もいるようですが、個人的には、人の命を奪うようなことをしたわけでないのなら、そこまで非難するようなことではないと思っています。

直接の被害者でもない人がとやかく言うのは見当違いではないでしょうか。

 

私は、稀に見る能力の高さを持つ戦慄かなのさんを、応援というか、「見ていたい」という気持ちでいます。

 

トリイ・ヘイデンの『シーラという子』は過去に世界的なベストセラーとなりましたが、彼女の不幸な生い立ちと、IQ180超えという天才ぶりに惹きこまれた読者がたくさんいたことと思います。

トリイは成長したシーラに、その能力の高さを生かした研究職のような仕事に就いてほしいと思っていたようですが、シーラは何故かマクドナルドで働くという選択をしました。

 

人は天才を目の前にしたとき、何かすごいことをしてくれるのではないかと、勝手に期待をしてしまうものです。

私は戦慄かなのさんが、活躍しても、しなくても、その行く先をそっと見ていたいのです。

 

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