サンライズプログラムとは?「自閉症スペクトラムの娘が見せた大きな変化」というニュースを見て
「自閉症スペクトラムの娘が見せた大きな変化」という映像がNNNのニュースとしてテレビで報じられ、Yahoo!ニュースでも取り上げられていました。
ニュースの内容は、1歳半の時に自閉症スペクトラム障がいと診断された成人女性の奥平佳子さん(長崎県佐世保市在住)が、「サンライズプログラム」という療育方法を試みたことによって、パニックや自傷行為が改善されたということでした。
この「サンライズプログラム」、ムスメが小さかった頃には出会わなかった療育法で、とても興味深かったので、いろいろ調べてみました。
サンライズプログラムの歴史
サンライズプログラムについて、今まで聞いたことがなかった療育方法なので、最近できた新しい方法なのかと思ったら、そんなことはなく、1970年代にコウフマン夫婦(Kaufman)によって考え出されたものなのだそうです。
1973年にご夫妻にローン(Raun)さんというの男の子が生まれます。
ローンさんは1歳のときにIQ30以下の重度の自閉症と診断されます。
そこでコウフマン夫妻は、自閉症に関わるあらゆる文献を読み、様々な療育方法について調べます。
自閉症の子どものを療育する様々な施設も見学に足を運びました。
療育施設で夫婦が見た光景は、常動行動(繰り返しの行動)をしないように椅子やテーブルに手足を縛りつけられていたり、ご褒美と罰の考え方に基づいた方法として、子どもが小さなクローゼットに閉じ込められるという罰を受けていたり、電気ショックを流すような方法でした。
1970年代の前半は、現在一般的に行われているABAセラピーの確立期で、ひょっとしたら手探りの状態で誤った方法を行われてていたかもしれませんね。
電気ショック(電流を流す?)なんて、恐ろしい方法も行われていたなんて驚きです。
コウフマン夫妻は、療育施設にローンさんを任せる気持ちになれず、自分たちなりのやり方で、愛を伝えながら取り組んでいこうと決意しました。
夫婦は、ローンさんの繰り返しする行動を一緒に行ったり、ローンさんの世界によりそって、参加させてもらい、理解しようと努めます。
やがて、この、真似をしたり、相手の世界に参加させてもらうという方法は、サンライズプログラム(Son-Rise Program)と名付けられ、ジョイン(Joining 参加する)という考え方を基本とし、コウフマン夫婦によって体系化されるようになりました。
サンライズプログラムの効果は?
3年半にわたって、コウフマン夫妻は自宅でサンライズプログラムを実施しているうちに、ローンさんは自閉症の症状が完全に消えたそうです。
ローンさんは社交的で、愛情深く、話し上手な子どもに成長します。
高校は主席で卒業し、ブラウン大学で生物医学倫理学の学位を取得。
子供学習センターのディレクターを務めた後、ご両親と自閉症治療センター(Autism Treatment Center of America)を設立するようになりました。
きっと、ローンさんはご自身の体験を自閉症治療に役立てようと、その道を志したのでしょうね。
重度の自閉症の子の目覚ましい成長は、書籍化され、映画化もされていますが、残念ながら、日本語版は出ておりません。
Son Rise: The Miracle Continues (English Edition)
なぜABAやTEACCHほど日本に広まらなかったのか?
自閉症スペクトラム障がいの療育方法はいくつかあり、ABA(応用行動分析学)やTEACCH(構造化プログラム)、感覚統合療法などがありますが、サンライズプログラムは何故、日本に大きな広がりを見せなかったのでしょうか?
サンライズプログラムは現在、コウフマン夫婦と息子のローンさんが創設したAutism Treatment Center of Americaが主体となって、自閉症児の親や療育者への教育プログラムを提供しています。
アメリカでは一定の支持を得ている療育方法ですが、ABAやTEACCHのように、大学などの研究機関に所属する研究者の裏付けが長い間なされていなかったことも公的な療育機関で採用されにくかった理由なのかもしれません。
Autism Treatment Center of Americaは1998年から活動しているようですが、2013年にKat Houghtonらによる”Promoting child-initiated social-communication in children with autism: Son-Rise Program intervention effects”という研究が報告され、2016年にCynthia K Thompsonらによって”Training Parents to Promote Communication and Social Behavior in Children with Autism: The Son-Rise Program”というサンライズプログラムの有効性を示す研究が報告されたてから、2010年代になってようやく日本でも療育に取り入れる人がちらほら出てきたような感じです。
サンライズプログラムは日本では遅咲きの療育法ですが、これから日本でどのような広まり方をしていくのか期待して見ていきたいと思います。
療育経験者としての私見
以下は私見です。
私のムスメも幼児期は公的な療育に通い、そこではTEACCH的環境が整っておりました。
就学までに、親としてできる療育はしっかりとやっておきたいと思い、家庭の中では少しだけABAを導入していました。
現在は自閉傾向はほとんど見られない子に成長し、問題行動も全くなく、年齢相応の学習能力もあります。
しかし、「療育したからこうなった」という確証もないような気がしています。
なぜなら、療育を積極的にしなくても自閉傾向が消えて定型発達に追いついた子も、身近にいるからです。
過去のABAに関する記事でも書きましたが、療育はおろか、親が他のことを優先して放っておかれている子は世の中にけっこういると思うのです。
ABAでもサンライズプログラムでも、何でもよいので「大人が関わる」ことが大切だと思っています。
「大人が関わってやりとりをしていく」というのが療育の基本で、それはどの療育方法でも同じだと思います。
ひょっとしたら、歴史的にABAが自閉症療育に取り入られた初期の頃は、今と違って過激なやり方をしていた時代があるのかもしれませんが、「子どもをほめる」という現在の強化子の取り方に特に問題はないと思います。
「療育」とくくらなくても、定型発達の子よりも少し長い時間、大人が子どもと一緒に「やりとり」しながら幼児期に遊んであげるだけで、その子の成長は、格段に違うと思うのです。
サンライズプログラムにしても、ABAにしても、どの療育方法にも批判は付き物で、それだけ子どもの成長というのが人それぞれで画一的ではないということだと思うのですが、子どもの性格や家庭の状況などを考慮しながら、その子に合った療育方法を見つけて、継続していくとよいのではないでしょうか。
個人的にサンライズプログラムについて思うことですが、自閉症児の世界に「参加する」ジョインという方法は、ABAの導入期によさそうだな、と思いました。
まず最初に、子どもと信頼関係を築く。
療育のスタートは、子どもに「信頼」してもらうことだと思うので、療育のスタート時点でサンライズプログラムのジョインをやってみるのは有効な気がしました。